法務省による「デジタル遺言」制度創設で遺言が身近に!?
2023年5月6日付の日経新聞は、政府が「デジタル遺言」制度の創設を調整すると報じました。日本においてはまだまだ敷居が高く感じられる「遺言書」ですが、「遺言書」さえあれば避けられたはずの「争族」が世の中に溢れていることをご存知でしょうか。多くの方は「争族は自分には関係のないこと」だと思っておられるでしょう。しかし、遺産分割事件のうち、およそ8割は遺産総額5000万円以下の相続において起こっています。さらに、およそ3割は遺産総額1000万円以下の相続で起こっているのです(※)。親族で無用に争うことなく故人の意思を引き継ぐための「遺言書」は、「デジタル遺言」制度の創設によって、誰もが気軽に利用できるものとなるでしょうか。
(※この点について詳しくは弊所代表上村拓郎著作である「相続をちょっとシンプルに」をぜひご一読ください。)
相続をちょっとシンプルに 気づきをうながすためのケアフル相続入門 [ 上村拓郎 ]
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公正証書遺言・自筆証書遺言のデメリット克服が期待されるデジタル遺言制度
現状、法的効力のある遺言書は「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類あり、そのうち利用されることが多いは「公正証書遺言」「自筆証書遺言」の2つです。「公正証書遺言」は、公証役場の利用、公証人手数料などの費用の点から、一般的には敷居が高いと感じられるかもしれません。一方で「自筆証書遺言」は自分で作成できる気軽さがあるものの、全文自筆で書かねばならないというハードル、日付や押印等、要件を満たしていなかった場合に無効となるリスクがある、などのデメリットがありました。
創設が期待される「デジタル遺言制度」では、パソコンやスマートフォンで作成し、クラウドに保存するなどの案があります。フォーマットに沿って入力を進めれば要件を満たす遺言書が出来上がるなど、遺言に詳しくない方にも作りやすい遺言書となるでしょう。また、タンスの奥にしまい込んだまま相続人に発見されないなどの紛失リスクが無いこともメリットです。
デジタル遺言制度における課題
これまで、遺言制度の厳格な方式は、遺言書が遺言者の真意に基づくものであることを担保してきました。デジタル遺言制度においては、遺言者の真意をどのようにして担保するかが一つの課題となりますが、ネット上で顔写真撮影をする、マイナンバーカードを併用するなどの対策が取り上げられています。
また、作成後の遺言の内容改ざん防止には、ブロックチェーン技術を用いることが挙げられています。ブロックチェーン技術とは、暗号技術を用いて取引履歴をブロックという単位で記録し、それを鎖のようにつなげる形で保管する仕組みであり、改ざんはほぼ不可能であるとも言われています。
デジタル社会で使いやすい遺言制度の導入へ
お隣の韓国では録音を用いた遺言が認められています。また、アメリカでは2019年に電子遺言書法という法律が制定されており、ネバダ州・インディアナ州・アリゾナ州・フロリダ州でデジタル遺言書が合法です。日本においても、近い将来のうちに、安全性の担保されたデジタル遺言の仕組みが実現されることが期待されます。特に、パソコンやスマートフォンを気軽に利用する世代、デジタル技術に抵抗感のない世代において広く遺言制度の利用者が増えることも予想されます。一方で、世の中に遺言制度が浸透することにより、従来の厳格な方式のもとで作成される遺言書についても、利用者が増えるかもしれません。
人生において築き上げてきた財産の遺し方を自分で決め、様々な想いとともに遺された人たちへ託す。親族間の無用な争いを防ぐためにも、多くの方に遺言制度を利用して頂きたいものです。
デジタルにはまだご不安を感じられる方、専門家と話し合いを重ね、後悔の残らない遺言書を作成したい方は、是非当事務所に一度ご相談下さい。
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